前回は、2004年に上演されたIFCAオペラ「大正時代のボエーム」を紹介しました。これはモーツァルトの傑作オペラ『ラ・ボエーム』を、日本の大正時代に見立てた設定にし、和の良さをとりいれた、当時、とても斬新な演出のオペラでした。

今回は2005年に、「雛祭りのフィガロの結婚」というタイトルで上演されたIFCAオペラについて紹介します。こちらもモーツァルトのオペラ『フィガロの結婚』を、日本的な演出に変えて上演したものです。タイトルロールを演じるのは深見東州さんです。

『フィガロの結婚』は、素晴らしいモーツァルトの音楽とドタバタ喜劇が絶妙にかみあった、モーツァルトのオペラ・ブッファの最高傑作と言われていますね。
原作は、ピエール・ド・ボーマルシェの戯曲『フィガロの結婚、または狂おしい一日』です。ボーマルシェは、『セビリアの理髪師あるいは無用の用心』という戯曲も書いていて、こちらはロッシーニが作曲をし、オペラ『セビリアの理髪師』として上演されました。『フィガロの結婚』はその後日談になります。

『フィガロの結婚』は、18世紀後半の、フランス革命直前のスペイン、セビリア近郊にあるアルマヴィーヴァ伯爵の館が舞台です。貴族が政治的・社会的な特権を持っていましたが、啓蒙思想が広がり、身分による差別への批判が強まっていた時代です。
舞台はスペインなのですが、フランス貴族社会を風刺した作品と言われています。初夜権などの、貴族の横暴に対して、「貴族だから召使いより人間として優れているわけではない」という、1786年初演当時としては大胆なアプローチのオペラでした。

そのオペラに、女の子の健やかな成長と幸福を願い、女性を難事から守るという意味もある、日本の雛祭りをかぶせてきたところに、演出した人の風刺精神を感じましたね。
物語の核としては、アルマヴィーヴァ伯爵に仕えるフィガロと、その婚約者スザンヌを中心に、スザンヌを我がものにしようとする伯爵にそうはさせじと一泡ふかせる内容です。最後には、いくつものカップルが、ハッピーエンドで終わるところなど、女性の幸せという雛祭りの設定がハマっていたと思います。
『フィガロの結婚』における女性の幸せというテーマが、より明るく楽しい演出になっていました。
歌に関しては原語に忠実ですけど、日本的な仕草や演技、和風の衣装によって、欧米の『フィガロの結婚』とは、またちがった喜劇作品に仕上がっています。
物語は、いろいろ急展開しますので、ストーリーについていけなくなる人もいるかもしれません。あらすじは、こちらのMXテレビが編集して放送された「新しい日本のオペラを目指して!深見東州が描く和風『フィガロの結婚』」を見ると、わかると思います。歌や演出の楽しさも、ある程度は伝わりますが、実際はもっと楽しく笑えるオペラでした。
タイトルロールを演じた深見東州さんの歌と演技も見どころです。師匠であるグレゴリー・ユーリシッチ(バリトン)さんが、深見東州さんが55歳の時、ちょうどこの頃だと思いますけど、「いまの深見さんは、歌も演技も、ヨーロッパに行っても、スカラ座やコベントガーデンの次のランクの劇場で主役をやれるレベルになった」と評価していました。本当のベルカントで歌えるのは日本では深見東州さんしか知らない、という話もされていたようです。
共演した日本のオペラ歌手も、深見東州さんの発声は、イタリアで学んでいた時に聞いたものと同じと思ったそうです。他のオペラ歌手もみんなそう言ってますよと、言うことでした。
先ほどの動画では、その深見東州さんが歌うアリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」をはじめ、出演者による素晴らしい歌も聞けますね。
今回、ドイツからエマフォスターさんが来日し、美少年ケルビーノ役を演じました。グレゴリー・ユーリシッチさんと深見東州さんが設立したオーストラリアン・オペラ・スタジオの卒業生です。当時はドイツのヘッセン州立歌劇場(ヴィースバーデン)の契約歌手として活躍中でした。

この役は、メゾソプラノがいつも演じます。女性が少年役を演じ、その少年が女装するという面白さも見どころの一つですね。
「雛祭りのフィガロの結婚」のあらすじと詳細
以下に、大まかなあらすじを書いています。
第1幕 アルマヴィーヴァ伯爵邸 婚礼の日の朝
アルマヴィーヴァ伯爵(佐野正一)に仕える理容師フィガロ(深見東州)と、伯爵夫人の侍女スザンヌ(大貫裕子)は、今宵、結婚することになっています。

伯爵が結婚祝いに与えてくれた部屋で、フィガロは楽しく家具の寸法を測っています。スザンナも楽しそうに歌っています。ところがスザンヌは、この部屋は伯爵がスザンヌを手にいれ、楽しむために用意したことを見抜いていました。
伯爵が、一旦は廃止した封建的権利(初夜権)を復活させようと目論んでいることを知り、憤慨したフィガロは、その卑劣な計略をひっくり返そうと決意します。

女中頭のマルチェリーナ(諸田広美)はフィガロに気があり、フィガロが昔マルチェリーナに借金をした時、「返せない時は結婚する」と約束したことを盾に、フィガロとスザンナの結婚を阻止しようと思っています。スザンナにも、その約束の証文があることを告げますが、スザンナにはうまく言いくるめられます。
医師のバルトロ(彭康亮)は、『セビリアの理髪師』で、ロジーナ(今のアルマヴィーヴァ伯爵夫人)との結婚をフィガロに邪魔されたと逆恨みしていています。フィガロへの復讐の機会だと思って、マルチェリーナに加担します。

小姓ケルビーノ(エマ・フォスター)は、スザンナをはじめ、館の女性という女性に恋する多感な少年です。なかでも伯爵夫人に恋焦がれています。逢い引きが見つかり、クビになりそうだから、スザンナに伯爵夫人にとりなしをしてほしいと相談に来ました。
ところが伯爵もスザンナの部屋に入って来たため、ケルビーノは急いで身を隠します。伯爵は初夜権のことをふりかざし、スザンナに迫ってきます。
そこに音楽教師のバジリオ(大間知覚)までが部屋に入ってきたため、伯爵も慌てて身を隠します。ところがバジリオが、ケルビーノが伯爵夫人に色目を使っていることを話すと、伯爵は怒って姿を現します。

スザンナは伯爵との仲をバジリオに怪しまれないか気にかけますが、さらに、伯爵が隠れていたケルビーノを発見します。そして、先ほどスザンナに話したことを聞いていたかと問うと、できるだけ聞かないようにしていましたと答えたため、場内の爆笑を誘いました。
ケルビーノに対して怒り心頭の伯爵ですが、そこにフィガロが大勢の村人を引き連れてやってきました。フィガロは、伯爵が初夜権を廃止したことを讃え、皆、その寛大な伯爵の行いを讃えあげます。伯爵が悪事をしないようとの、フィガロの魂胆です。伯爵は穏やかな気持ちではないものの、早く婚礼をすることを約束し、ケルビーノに対しては、許してやるが、戦地に行くように命じるのでした。

ここでフィガロ(深見東州)は、「もう飛ぶまいぞこの蝶々」を歌い、ケルビーノは桃太郎に変身させられます。

第2幕 伯爵夫人ロジーナの部屋 午前中
伯爵夫人のロジーナ(小林菜美)は、夫である伯爵を愛していますが、伯爵には私への愛がなくなったと、苦しんでいました。アリア「「愛の神様よ、みそなわせ」」を歌います。

フィガロとスザンナはそんな伯爵夫人を助けようと、伯爵夫人の部屋にやってきます。フィガロは、狩りに出た伯爵に、伯爵夫人の浮気をでっち上げた匿名の手紙が渡るよう手を打ち、さらに、スザンナが伯爵に逢引を約束し、そこに女装したケルビーノが身代わりに現れて、伯爵夫人が浮気の現場を取り押さえる計画を行おうと考えています。
フィガロと入れ替わりに、ケルビーノは伯爵夫人に別れをいうために部屋を訪れます。そこで伯爵夫人への想いから、「恋とはどんなものかしら」を歌います。

スザンナはケルビーノに女装させます。伯爵夫人の部屋に伯爵が入ろうとやってきます。伯爵夫人はケルビーノを慌てて衣装部屋に隠しますが、怪しむ伯爵に対して、スザンナが衣装部屋にいるのですと嘘をつきます。
それでは開けてみようということで、伯爵は開ける道具を取りに、伯爵夫人と共に一旦部屋を出て鍵をかけます。戻ったスザンヌは、ことの次第に気付き、ケルビーノに部屋から逃げるように言いますが、鍵がかかって外に出られません。ケルビーノは思いあまって窓から外の庭に飛び降ります。外では庭師が、鉢が割れたと騒いでいます。

そこに伯爵と伯爵夫人が戻ってきました。ケルビーノが外に逃げたことを知らない伯爵夫人は、実はケルビーノが中にいると正直に言ってしまいます。伯爵は、夫人の浮気の手紙を受け取っていたため、このことかと思って、道具を使って衣装部屋を開けようとすると、中からスザンヌが現れびっくりします。
伯爵は、伯爵夫人のことを疑ったことをスザンナに攻め立てられ、平謝りになります。伯爵夫人に対して、今後はもっとお互いに理解し合おうと、疑って後悔したことを告げるのでした。
一件落着かと思われましたが、そこに庭師(筒井修平)がやってきて、2階から誰かが飛び降りたことを伯爵に告げます。しかし、そこにフィガロがやってきて、機転をきかしてうまく誤魔化します。

今度はマルチェリーナが、バルトロとバジリオをともなって現れます。そして、証文にもとずき、フィガロに結婚の履行を求めることができるかどうかで、大騒ぎになります。伯爵は公平な裁判によって決めると告げ、スザンナとフィガロは窮地に立たされるのでした。

第3幕 伯爵の部屋、結婚式の広場 午後から夕方
伯爵は匿名の手紙が来たり、伯爵夫人を疑ってひどく怒られたり、いろいろな事で自分の権威が失われたとイラつき嘆いています。そこにスザンナがやってきて、伯爵の要求を受け入れると言うので、なぜ急に心変わりをと思いつつも喜んでいます。伯爵夫人との計画で、スザンナが伯爵の望みどおりに逢引きを約束し、スザンナの衣装を着た伯爵夫人が逢引の現場に現れるという計画とも知らずに。

伯爵は、スザンナがフィガロに自分たちの勝利だとささやくのを耳にして、下僕や女中に負けるものかと虚勢をはり、アリア「もうおまえの勝ちだといったな…ため息をつきながら」を歌うのでした。
裁判がはじまり、館の代官役ドン・クルチオ(牧川修一)は、借金を返せないのであれば、フィガロとの結婚を許すとマルチェリーナに言い渡します。しかし苦し紛れにフィガロが身の上話をしたことから、実は子供の頃に攫われて行方不明になった、マルチェリーナとバルトロの間に生まれた子であることが発覚します。

親子で結婚するわけにはいかないと、伯爵は退席します。マルチェリーナとバルトロとフィガロの3人が喜び合っているところを見たスザンナは、てっきりフィガロが心変わりしたのかと勘違いして、思い切りフィガロの頬を打つのでした。しかしすぐに事情を知って、これまで反目しあっていた2組の関係は、家族の親愛の情に満ちたものへと変わり、4人は喜びあうのでした。

スザンナは伯爵夫人と、計画の実行のため、伯爵への恋文をしたためます。このシーンでは、伯爵夫人の「楽しい思い出はどこに」と、ふたりによる手紙の二重唱「そよ風に」を歌います。

そして皆が集まり、いよいよ結婚式が始まります。スザンナとフィガロに加えて、急遽、マルチェリーナとバルトロも結婚式をあげることになりました。
そこでスザンナが、こっそりと伯爵に手紙を渡すのをフィガロは見てしまいます。それが伯爵夫人の計画であることをフィガロは知りません。そして、伯爵もそのことを知らず、喜び勇みます。

第4幕 屋敷の庭園 夜から翌日の夜明け
フィガロはスザンナの裏切りを嘆き、「準備はできた…目をちょっと大きく開いて」を歌います。そして偶然、逢い引きの場所を知ることになり、その場所に出向きます。

フィガロが隠れていることに気がついたスザンナは、私が裏切ったと思って怒っているフィガロに対し、愛情の深さを感じつつも、腹を立てて、からかってやろうと思い、「とうとうその時が来た…恋人よ早く」を歌います。

いよいよスザンナに変装した伯爵夫人のところに、何も知らない伯爵が現れます。スザンナだと思って言い寄ると、やはりスザンナだと思っているフィガロが現れたため、スザンナに変装した伯爵夫人と伯爵は、別々にその場を去ります。

伯爵夫人に変装したスザンナと、フィガロの2人だけが残ります。その声を聞き、実はスザンナであることに気がついたフィガロは、わざと気がつかないふりをして、伯爵夫人に変装したスザンナを口説こうとします。そのためスザンナは怒りだし、フィガロの頬を何発も叩くのでした。しかし、最初から君だとわかっていたよ、と言うフィガロの言葉で、2人は仲直りをします。

伯爵がスザンナを探しているのを見て、2人は協力して伯爵を懲らしめようと考えます。伯爵の面前で、伯爵夫人に変装したスザンナをフィガロが口説きます。それを見た伯爵は烈火の如く怒ります。不義の赦しを乞う2人に対して、自分自身のことは棚に上げ、絶対に許さんと告げます。
するとそこへ、スザンナに変装していた伯爵夫人が現れて、「私が2人のために許しを乞いましょう」と告げます。伯爵は、スザンナだと思っていたのが、実は伯爵夫人ロジーナだったことに気が付きます。茫然自失となり、心から伯爵夫人に赦しを乞います。夫人は、意地を張らずにあなたを許しますと伝えます。

円満な、皆が幸せになる形で、この物語は終わります。原作『フィガロの結婚、または狂おしい一日』とあるように、これらのあらゆる出来事は1日で起きたという設定です。
オペラ「雛祭りのフィガロの結婚」 W.A.モーツァルト作曲 原題「フィガロの結婚」全四幕 イタリア語上演(字幕付き)

- 公演日 2005年9月15日
- 会場 ゆうぽうと簡易保険ホール
- 後援 毎日新聞社. 東京MXテレビ
- 主催・製作 NPO法人 世界芸術文化振興協会(IFAC)
スタッフ
- 指揮 河地良智
- 演出 大島尚志
- 総合プロデューサー 深見東州
- 音楽監督 栗林義信
- 美術 星健典
- 衣装 清野佳苗
- 照明 奥畑康夫
- 音響 仙頭聡
- 舞台監督 小桜邦彦
- 演出助手 手塚優子
- 副指揮 藤本潤/高野秀峰/小屋敷真
キャスト
- フィガロ(日賀朗)深見東州
- スザンナ(寿山奈)大貫裕子
- 伯爵夫人ロジーナ(露慈汝)小林菜美
- アルマヴィーヴァ伯爵(有魔美馬)佐野正一
- ケルビーノ(蹴美野)エマ・フォスター
- マルチェリーナ(丸地恵利奈)諸田広美
- バルトロ(春瀞)彭康亮
- バジリオ(馬尻男)大間知覚
- ドン・クルチオ(豚来千代)牧川修一
- アントニオ(庵頭仁王)筒井修
- バルバリーナ(晴針南)上田由紀子
- 花娘 柴田理子
- 花娘 山口清子
- 管弦楽 東京ニューフィルハーモニック管弦楽団
- チェンバロ 奥谷恭代
- 合唱 雛祭りのフィガロの結婚合唱団







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