前回の記事でも触れましたけど、「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー(Handa Opera on Sydney Harbour)」は、昨年までオペラ・オーストラリアの芸術監督だったリンドン・テラシーニ氏が掲げる「オペラをもっと身近に (Opera for Everyone)」のスローガンの下に始まった野外オペラです。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州政府の観光・イベント戦略の一環であるデスティネーションNSWと、深見東州さんが会長を務めるIFAC(世界芸術文化振興協会)の後援を受けて実現しました。
シドニー湾に面した王立植物園内にある、ミセス・マコーリーズポイントのフリート・ステップスというイベント会場で行われます。ここに毎年、シドニーのシンボルと言えるオペラ・ハウスやハーバー・ブリッジ、シドニー市街の高層ビル群を背景にして、湾に突き出るようにステージが設営されます。そんな最高のロケーションに3000もの観客席が用意され、敷地内にはバーやレストランが6カ所常設されるそうです。
座る席によっても見え方は変わりますけど、どれも壮観な眺めですね。
地図で見ると、シドニー湾内の位置関係がわかりやすいと思います。右側にいくと太平洋に出ます。
3月下旬から4月下旬まで、毎年1か月にわたり開催されますけど、この時期のシドニーは暑くもなく寒くもない、天候的には恵まれているそうです。ただ夜間になると、やはり薄着では寒いそうです。そして雨天決行で行われますけど、最近この時期に大雨が降ることがあり、特に去年は激しい雨のために公演途中で中止になった日もありました。
上の画像は2014年の「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」で上演された『マダム・バタフライ』の一幕です。日本では『蝶々夫人』として、あまりに有名なプッチーニの作品になりますが、プッチーニはこの作品を5回書き直し、今は5つのバージョンを組み合わせて公演されているそうです。
この2014年の公演では、スペインの独創的で大規模なショーで評価が高い劇団「ラ・フラ・デルス・バウス」を率いるアレックス・オレの演出で行われました。これまでの『マダム・バタフライ』の素晴らしさを受け継ぎつつ、現代的なエッセンスを加えた作品になりました。
具体的には、音楽の素晴らしさや舞台となる長崎ののどかな街並みはそのままに、アメリカ海軍将校ピンカートンが不動産開発業者になり、蝶々さんへの興味のみならず土地にも関心を示し、長崎の自然の美しさを人工的に開発して環境を変えてしまうという設定です。そして、この物語の悲劇とも言える、15歳の蝶々さんとの結婚に批判的な演出になったと言われています。
アレックス・オレは「このオペラの究極の意味は、楽園の喪失である」との視点から、大胆な演出を行いました。プッチーニの意図を尊重しながらも、今の時代に強いメッセージを発信することに成功したと評価されました。
「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」の公演は、2012年の初演から瞬く間にシドニーの人気イベントになりましたが、中でも2014年の『マダム・バタフライ』は、非常に高い評価と人気を獲得しました。2022年までにいくつもの有名なオペラやミュージカル作品を上演してきた「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」の中でも、最も評価の高い作品の一つと言われています。
ちなみにこの作品は、ローマのカラカラ遺跡とサーカス・マキシマスでも上演され、「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」の作品の中では唯一、海外で上演された作品となりました。
そして今年2023年の「ハンダ・オペラ・オン・シドニー・ハーバー」では、このアレックス・オレ演出による『マダム・バタフライ』が、9年ぶりにスサナ・ゴメス氏によって再演されました。
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